NHK朝ドラ『ばけばけ』第28回(11月5日放送)で、視聴者に大きな衝撃を与えたシーンがありました。
それは、松江の名家・雨清水家の当主夫人タエ(北川景子)が、物乞いとなって路上に座っている姿が映し出されたことです。
かつては大勢の女中に囲まれ、凛とした気品を備えた武家の娘として描かれていたタエが、なぜ極貧の状態に陥り、物乞いという選択をしなければならなかったのか。
そこには、家族との絆、社会の変化、そして武家の誇りが引き起こした悲劇が複雑に絡み合っていました。
本記事では、タエが物乞いに至った背景と、彼女が極貧から抜け出すことができるのかについて、ドラマの展開を基に考察していきます。
タエが物乞いに至った経緯:家族の没落から個人の転落へ
『ばけばけ』の物語の中で、雨清水家は松江でも随一の名家として描かれていました。
タエは幼い頃から多くの女中に囲まれ、礼儀作法やお茶などの武家の教養を厳しく学ぶという何不自由ない人生を送っていました。
しかし、時代の変化はこの名家にも容赦なく襲いかかります。
夫である雨清水傳(堤真一)は、家業として機織り工場を営んでいましたが、明治の不況の波に飲み込まれます。
経営難に陥った工場、そして子供たちの問題から傳は多額の借金を背負うことになりました。
傳が病に倒れて亡くなった後、タエと息子の三之丞は、屋敷と家財をすべて売却して借金を返済するという決断を迫られたのです。
武家の誇りが生み出す悲劇:「人に使われる」ことの拒否
雨清水家を追われたタエと三之丞は、安来という土地に住む親戚の家に身を寄せることになります。
生活の糧を得るために、三之丞が外へ働きに出ようとした時、タエは言い放ちます。
「雨清水家の人間なら、人に使われるのではなく、人を使う仕事をしなさい」
と。
今思えば、これがタエの転落の重要なターニングポイントとでした。
武家の伝統と誇りを何よりも大切にするタエの信念は、当主を亡くした家族にとって、かえって重すぎる足かせとなってしまったのです。
三之丞は親戚の家での生活費を入れることができず、結果として親戚の家からも追い出されてしまうことに・・。
その後も、タエと三之丞は親戚の家を転々とします。しかし、どこへ行っても同じことの繰り返し。
親戚の家も生活が苦しい状況では、無職で金も入れられない親子を養う余裕はありません。
頼れる当て(あて)も尽きて、ついに松江へ戻ってくることになったのです。
タエが極貧へと至る最終段階:物乞いという選択
松江に帰ってきたタエと三之丞の前には、もはや何も残されていませんでした。
金も家も、そして頼る親戚もいない。
そうした絶望的な状況の中で、タエは「働くぐらいなら、潔く物乞いになろう」と決断します。
この選択は一見すると矛盾しているように見えますが、タエの価値観が表れている選択です。
「人に使われる」ことを何よりも恥ずかしいと考えるタエにとって、雇用関係に基づく労働よりも、物乞いの方が自分の誇りを守る手段だったのでしょう。
ドラマの中で、施しを受けたタエが最終的に「潔く」頭を下げる姿が描かれたのは、彼女が自分の選択に対して一定の納得を持っていることを表していると考えられます。
トキの決意がもたらす変化:女中という選択肢
しかし、ドラマの展開には、タエが永遠に物乞いの生活を続けることにはならない兆しが垣間見えます。
タエが物乞いをしている姿を目撃したトキ(髙石あかり)は、深く心を揺さぶられました。
生みの親の転落を前にして、トキはある決意をします。
それが、外国人教師・ヘブン先生(トミー・バストウ)の女中になるという決断です。
この決意の背景には、複数の要因があると思われます。
あの誇り高いタエが頭を下げる姿を見て、タエが自分の誇りをかなぐり捨てても家族を守ろうとしていることを理解したこと。
そして、女中として働くことで得られる月給20円という高額な収入で、タエと三之丞を支援することができるという金銭的+現実的な判断です。
『ばけばけ』の時代の20円について解説記事

タエの極貧からの脱出:トキの援助が生む希望
トキが女中になることを決意した第30回(11月7日放送)の後から、ドラマの展開は大きく変わりそうです。
トキは女中の仕事を開始し、得た給与の一部をタエと三之丞のために渡すようになるという展開が予想されます。
松江大橋で三之丞に10円を渡し、「タエのために使ってほしい」と促すシーンもあるとされていて、親孝行と生みの親への責任感を示す重要な場面が描かれそうです。
このトキの援助により、タエと三之丞の生活状況は改善されると思われます。
ドラマ『ばけばけ』が描く社会の現実と人間関係の力
『ばけばけ』が描くタエの物乞いのシーンが視聴者に大きなインパクトを与えた理由は、単なる衝撃的な映像表現だけではありません。
このシーンは、武士の時代が終わり、新しい時代へと移行する明治日本の中で、過去の価値観に固執することがいかに悲劇的な結果をもたらすのかを象徴しているのです
同時に、タエが極貧から抜け出せるのかという問いに対する答えは、タエ個人の努力や価値観では解決できなさそうです。
しかし、タエにとって「血のつながりを持つ他者」であるトキの決意と行動が、タエの人生を変える力となるでしょう。
まとめ:『ばけばけ』雨清水タエ(北川景子)はなぜ物乞いに?
雨清水タエが物乞いに至った背景には、武家の誇りに固執することで時代の変化への適応を拒否したという側面があります。
しかし、タエが極貧から抜け出すために、生みの娘であるトキが女中を引き受けるという決断と、それに伴う経済的な支援が新たな希望をもたらしているのです。
ドラマはここで、家族の絆がいかに困難な状況を打開する力を持つのか、そして社会の変化の中で生き残っていくためには柔軟性と新しい人間関係の構築がいかに重要であるかを教えてくれているのかもしれません。
タエの転落を目にするのは痛ましいものですが、トキによる救済の物語として描かれることで、悲劇的な没落の物語だけではなく、困難の中にある人間の強さと愛情も感じ取ることができるでしょう。
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