2024年のオカダ・カズチカを皮切りに、内藤哲也、EVIL、高橋ヒロムなど、新日本プロレスの看板選手が次々と退団しています。
なぜ今、これほどまでに主力選手の流出が続いているのでしょうか?
この記事では、近年において新日本プロレスを退団した選手の一覧と時系列、そして退団が相次ぐ5つの理由を徹底考察します。
日米の年俸格差、キャリア選択の変化、団体の構造的な問題まで、プロレスファンが気になるポイントを深掘りしていきます。
新日本プロレスを退団した主な選手一覧【2024年〜2026年】
まずは、直近(2024年以降)で新日本プロレスを退団した主な選手を時系列で整理しましょう。
| 退団時期 | 選手名 | 退団後の動向 |
|---|---|---|
| 2024年1月 | オカダ・カズチカ | AEW移籍 |
| 2024年2月 | ウィル・オスプレイ | AEW移籍 |
| 2024年 | 柴田勝頼 | AEW移籍 |
| 2025年4月 | 内藤哲也 | NOAH参戦 |
| 2025年4月 | BUSHI | 退団(内藤と行動を共に) |
| 2025年4月 | ジェフ・コブ | 退団 |
| 2026年1月 | SANADA | 欠場→退団を示唆 |
| 2026年1月 | EVIL | 契約満了で退団 |
| 2026年2月 | 高橋ヒロム | 退団(2月11日大阪がラスト) |
(参照:新日本プロレス公式サイト)
さらに、2026年1月4日の東京ドーム大会では、エースとして暗黒期から団体を支え続けた棚橋弘至が現役を引退し、社長業に専念しています。
つまり、わずか2年の間に団体の歴史を築いたメインイベンターがほぼ全員いなくなるという、かつてない事態が起きているのです。
新日本プロレスを退団する主力選手が多い5つの理由
理由①|日米の「年俸格差」が決定的に拡大している
退団が相次ぐ最大の理由は、日本とアメリカにおけるプロレスラーの報酬格差です。これはプロ野球のNPBとMLBの関係に極めて似ています。
レスリング・オブザーバーのデイブ・メルツァーは「今のトップ選手たちは”数百万ドル単位”で稼いでいる。年間500万ドル(約7億5000万円)も珍しくない」と語っています。
一方、新日本プロレスのトップ選手の推定年俸はどうでしょうか。
| 団体 | 選手クラス | 推定年俸 |
|---|---|---|
| 新日本プロレス | トップ選手 | 2,000万〜5,000万円 |
| AEW | トップ選手 | 1億〜5億円以上 |
| WWE | トップ選手 | 5億〜15億円以上 |
(参照:ファイティング・スペシャリティ)
オカダ・カズチカの年俸は新日本時代に推定5,000万円でしたが、AEW移籍後は3億円以上とも報じられています。
メルツァーも「以前なら新日本がトップ選手を獲得できた。でも今は、AEWやWWEに比べると金銭面で全く太刀打ちできない」と明言しています。
WWEはNetflixとの超巨額放映権契約、AEWは大富豪トニー・カーン一族の資金力を背景に、レスラー獲得競争が激化。
その結果、新日本プロレスが資金面で対抗できない構図が固定化しているのです。
理由②|プロレスの「MLB化」とキャリアアップの潮流
かつてプロレスラーが団体を離脱する際には「裏切り」「追放」「引き抜き」といったネガティブなイメージがつきまといました。
しかし、現代の退団は明らかに性質が異なります。プロレスメディア「プロレスTODAY」は、この現象を「プロレス市場のMLB化」と表現しています。
大谷翔平や山本由伸がMLBに挑戦する際に「裏切り者」と呼ばれないのと同様に、プロレスラーが世界最高峰の舞台を求めて移籍するのは、プロフェッショナルとして正当なキャリア選択だという見方です。
実際、棚橋弘至社長も高橋ヒロムの退団について「いろんなとこで自分自身の可能性を試してみたい、っていうね」とヒロムの決意を代弁し、「レスラーの根源的欲求に対して、ノーは言えなかった」と語っています。
新日本プロレスという日本の最高峰で実績を残した選手が、さらに大きなステージを求めて羽ばたく。これは「流出」ではなく「FA宣言」であり、プロレスがグローバルスポーツとして成熟した証とも言えます。
理由③|世代交代の過渡期と「居場所」の問題
内藤哲也の退団理由には、年俸格差だけでは説明できない要素があります。内藤は新日本を退団後、WWE・AEWではなくプロレスリング・NOAHを選びました。
あるプロレスブロガーの分析が興味深い視点を提供しています。内藤にとって最もつらかったのは「まだ終われない存在」として扱われ続けることだったのではないか、と。
新日本プロレスでは「令和闘魂三銃士」と命名された海野翔太・成田蓮・辻陽太を中心に世代交代が進んでいました。
その中で全盛期の動きができないにもかかわらず、名前と格の高さから中心にいなければならない——この板挟みが、ベテラン選手たちを苦しめた可能性があります。
高橋ヒロムの退団も「年齢的なことも言っていた」「いろんなことに挑戦するタイミングなのは今」「内藤の退団がヒロムに大きく影響している」と棚橋社長が明かしています。
ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン(LIJ)の盟友である内藤が去ったことで、ヒロム自身も新日本に留まる動機が薄れたと推測されます。
EVIL(イービル)やSANADA(サナダ)の退団・離脱についても、HOUSE OF TORTUREというユニットの位置づけや、メインストーリーへの絡みの減少が背景にあるとの見方があります。
長年貢献した選手であっても、世代交代の波の中で「自分の最高の姿を出せる場所」が新日本の中になくなりつつあったのかもしれません。
理由④|AEW・WWEとの提携がもたらす「扉」の存在
近年の新日本プロレスは、AEWとの提携関係を深め、合同興行「Forbidden Door(禁断の扉)」を開催するなどグローバル展開を推進してきました。
しかし、この提携は両刃の剣でもありました。AEW参戦を経験した選手が、アメリカのリングの規模感、報酬、そして世界中のファンからの反応を肌で感じてしまうと、「次は向こうで勝負したい」という気持ちが芽生えるのは自然なことです。
ウィル・オスプレイはAEWを選んだ理由として「1番のアドバンテージは(AEWでは)プロレスが尊重されること」と語り、新日本で磨いたスタイルをそのまま活かせる環境を評価しました。
オカダ・カズチカもAEWでヤングバックスとの合流を果たし、新たな物語を紡いでいます。
つまり、AEWとの友好関係が「選手にとっての移籍ルート」として機能してしまっている側面があるのです。
新日本プロレスのサブスクサービス「新日本プロレスワールド」でAEWの番組が視聴可能になっていることも、ファンと選手の双方にとって「壁」が低くなる要因です。
理由⑤|団体の経営環境と構造的な課題
新日本プロレスの経営面にも注目する必要があります。
2024年6月期の新日本プロレスの売上高は約50億1,700万円、経常利益は約4億4,700万円でした。
親会社であるブシロードの決算でも、スポーツ事業(新日本プロレス+スターダム)の観客動員は「軟調」と評価されています。
2025年1月4日の東京ドーム大会の観客動員は24,102人で、コロナ禍を除く過去の東京ドーム興行では最低の数字でした。
ただし、2026年1月4日の棚橋引退大会では46,913人と超満員札止めを記録し、大きく回復しています。
とはいえ、この回復は棚橋弘至の引退とウルフアロンのデビューという特別なイベントに支えられたもの。恒常的に東京ドームを満員にできるかどうかは、今後の大きな課題です。
棚橋社長はダイヤモンド・オンラインのインタビューで「木谷オーナーから”お飾り社長ではなく、数字を見て人を食わせることができる社長になれ”と言われている」と語り、「W字回復」を掲げて経営改革に取り組む姿勢を示しています。
過去にも繰り返されてきた「新日本プロレスの危機と再生」の歴史
実は、新日本プロレスで主力選手が大量に離脱するのは初めてではありません。
1984年には長州力率いる維新軍など総勢13名が大量離脱し、団体存亡の危機に陥りました。しかし、離脱で取り残された若手だった武藤敬司・蝶野正洋・橋本真也の「闘魂三銃士」が成長し、1990年代の第2の黄金期を築きました。
2016年にも中邑真輔、AJスタイルズ、カール・アンダーソンら5人のトップレスラーが一斉にWWEへ移籍。当時も「新日本は終わった」と言われましたが、その後オカダ・カズチカ、内藤哲也、ケニー・オメガらが中心となって過去最高レベルの人気と業績を達成しました。
つまり、新日本プロレスは「選手離脱→危機→新世代が台頭して再生」というサイクルを何度も経験してきた団体なのです。
今後の新日本プロレスはどうなる?2026年の注目ポイント
現在の新日本プロレスには、今後10年間が全盛期となるであろう、30歳前後の次世代エース候補が揃いつつあります。
●辻陽太:2026年1月4日にTAKESHITAを破りIWGPヘビー級王座を復活させ、第87代王者に戴冠。今後の新日本プロレスを牽引する
●KONOSUKE TAKESHITA:G1制覇とIWGP世界ヘビー戴冠で2025年の主役に。スケールの大きさと存在感は他の追随を許さない
●海野翔太:IWGP世界ヘビー級王座への挑戦実績あり。大ブーイングを大声援に変えた内藤哲也ロードを歩めるか
●成田蓮:EVILが去ったHOTの核となり、ヒール(悪役)としての立場からメインストーリーに食い込めるか
●上村優也:クラシカルなファイトスタイルが持ち味の正統派ベビーフェイス。次世代の“太陽”となれるか
●ウルフアロン:東京オリンピック柔道金メダリスト。デビュー戦でNEVER無差別級王座を獲得し話題沸騰。プロレスでも頂点を目指す
●Yuto-Ice:凱旋帰国からすぐにIWGPタッグ王座戴冠。バチバチのファイトスタイルに強烈なキャラクターで一気に最注目の存在へ
過去の歴史が証明しているように、主力が抜けた後こそ「次のスター」が生まれるチャンスです。
2026年にはIWGPヘビー級王座が復活し、地上波テレビ放送も22年ぶりにプライム帯で全国放送されるなど、明るい材料もあります。
棚橋弘至社長が掲げる「3年後理論」——改革の成果が現れるには3年かかるという信念のもと、デジタル化の推進やグローバル展開、地方プロモーションの強化が進められています。
まとめ:新日本プロレスを退団する主力選手が多いのはなぜ?
新日本プロレスを退団するスター選手が多い理由は、単一の原因ではなく、複数の要因が絡み合っています。
日米の年俸格差の拡大、プロレスの「MLB化」によるキャリア選択の変化、世代交代に伴うベテランの居場所の減少、AEWとの提携が生んだ移籍ルート、そして団体の経営環境の課題——
これらが複合的に作用して、かつてない規模の選手流出を生み出しています。
しかし、新日本プロレスは過去にも何度も同様の危機を乗り越え、そのたびに新たなスターを生み出して復活してきました。
棚橋弘至が社長として本格始動する今こそ、新日本プロレスにとって「次の黄金期」への助走期間と言えるかもしれません。
去る者あれば、来る者あり。
プロレスファンとしては、退団していった選手たちの新天地での活躍と、新日本プロレスのリングで輝く新世代の両方を楽しめる、ある意味ぜいたくな時代が来ているとも言えるのではないでしょうか。

