NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第20週「アンタ、ガタ、ドコサ。」の第99回で、視聴者の間に「ナンボウって何?」という疑問が広がっています。
レフカダ・ヘブン(トミー・バストウ)が自然な流れで口にした「ナンボウ」というひと言。
聞き慣れない響きと、どこかユーモラスな雰囲気に、SNSでは「意味が気になる」「元ネタは小泉八雲の言葉なのかな?」と考察の声があふれました。
本記事では、第99回のあらすじを振り返りながら、モデルとなった実在の小泉八雲と妻セツが交わした「ヘルンさん言葉」の史実も踏まえ、「ナンボウ」という言葉が持つ意味・ニュアンス・ドラマ上の役割を徹底考察します。
第99回、「焼き網紛失事件」の回でヘブンが使った言葉
第99回は、熊本のヘブン邸でトースト用の焼き網が突然なくなり、正木が”名探偵モード”に突入して家族全員を容疑者扱いする「焼き網紛失事件」がメインに描かれた回です。
“日常ミステリー”な展開の一方で、ヘブンがトキを散歩に誘い、熊本に来てから小説が書けなくなっている苦悩を静かに打ち明けるシーンが描かれました。
『ばけばけ』では、ヘブンが日本語と英語をミックスした独特の「ヘブン語」をたびたび口にします。
「ジゴク(地獄)」「テンキコトバナイ」など、意味はなんとなく伝わるのに、どこか音がズレているあの独特の言葉遣いです。
「ナンボウ」も、そんなヘブン語のひとつとして第99回に登場しました。
「ナンボウ」を音から分解してみると?
「ナンボウ」という音だけを聞くと、いくつかの日本語が重なって見えてきます。
まず思い浮かぶのが「なんぼ」という言葉。関西や西日本に広く残る方言で、「いくら」「どれくらい」という意味で日常的に使われます。
「それ、なんぼ?(それ、いくら?)」というあの「なんぼ」です。
もうひとつは「何某(なにがし/なにぼう)」という古い日本語。名前や正体をあえてはっきりさせない、「ある誰か」「何かよくわからないもの」を指す表現です。
この2つが混ざったような音が「ナンボウ」であり、標準的な辞書には載っていない言葉です。つまり、ヘブンが独自に作り出した”変形日本語(ヘブン語)”であると考えるのが自然です。
おトキ『ヘブンさんが好きそうな・・・』
ヘブン『ナンボウ スキ』
99話で交わされた、このヘブンとトキの会話の流れからすると『ナンボウ』=『とても』『すごく』『めっちゃ』という意味にも受け取れると思いました。
史実の「ヘルンさん言葉」とは?小泉八雲の日本語
ヘブンのモデルは、明治時代に来日して日本に帰化した文豪・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)です。
八雲は妻のセツと、「ヘルンさん言葉」と呼ばれる独特の言葉を使って会話していたことが知られています。
その特徴は、日本語の単語に英語の語感を混ぜ、助詞を省き、語順も崩した独自の話し言葉。
たとえば「テンキコトバナイ(天気は申し分ない)」のように、形容詞を活用させずそのまま使うなど、文法を完全に無視した造語が多く生まれました。
さらに興味深いのは、この「ヘルンさん言葉」は家族でも理解が難しく、息子の稲垣巌が「父が亡くなる1〜2年前になってようやく聞き取れるようになった」と回想しているほどだったという点です。
つまり「ヘルンさん言葉」は、「外国人だから日本語が下手」というのとは少し違います。
妻や子どもとだけ共有する”秘密の家族言語”に近い、親密さと特別感を帯びた言葉遣いだったのです。
「ナンボウ」はヘブンとトキだけの”合言葉”?
ドラマ『ばけばけ』のヘブンも、この史実を踏まえて意図的に奇妙な日本語を使うキャラクターとして設計されています。
トキや家族に対して、わざとおかしな日本語を使い、笑わせたり、距離を縮めたり、あるいは本音をぼかしたりしています。
「ナンボウ」も、「なんぼ(どれくらい)」のように感情の度合いであったり、「何某(よくわからない何か)」のように存在を曖昧にしたりする”クッション言葉”として自然に選ばれたのでしょう。
言い換えるなら、「ナンボウ」は「正確な意味に縛られない言葉」です。
意味をひとつに決めないことで、話す側も聞く側も、そのとき感じているいろんなものを自由に乗せられる。そんな言葉の”余白”を持たせていると考えられます。
ドラマの中で「ナンボウ」が果たす役割
第99回は、焼き網紛失による疑心暗鬼、ヘブンの創作スランプ、熊本での不安定な生活基盤など、家族のすれ違いや心の揺らぎを描くエピソードでした。
このタイミングで「ナンボウ」という言葉が置かれていることは、偶然ではないかもしれません。
「どれくらい信用していいのか」「どれほど不安なのか」「この先どうなるのか」——そうした”測りきれない感情”を、ひと言で象徴するキーワードとして機能していると見ることができます。
制作サイドは、週タイトルやセリフにヘブン語を織り込み、「気温」「寒さ」「孤独」のような感覚を言葉遊びで表現していることが明かされています。
この「ナンボウ」も単なるヘブン語の一つではなく、解釈の余白を持たせる仕掛けとして配置されている可能性が高いでしょう。
「ヘブン」という名前自体が”言葉で作られた存在”
そもそも、レフカダ・ヘブンという名前自体が言葉を重ねて作られています。「レフカダ」は彼が生まれたギリシャ西部のレフカダ島に由来する名前。
そして「ヘブン(Heven)」には、モデルである小泉八雲の姓「ヘルン(Hearn)」の音と、英語の「Heaven(天国/魂の安らぐ場所)」の意味が重ね合わされていると解説されています。
ヘブン自身が「異国のルーツ」と「日本という新しい居場所」が混ざり合った存在として設計されており、彼が口にする「ナンボウ」のようなヘブン語は、その象徴そのものと言えます。
「きっちり翻訳できないけれど、感情としては伝わる」——それがヘブンとトキの関係性そのものを映しているようにも感じられます。
今後の放送で「ナンボウ」の解釈が変わる可能性
第99回時点では、「ナンボウ」が公式に字幕や台本で解説されているわけではありません。
視聴者は、ヘブン語全体の文脈や「ヘルンさん言葉」の史実から、それぞれに意味を読み取っている状況です。
ただ、今後の展開で同じ言葉が繰り返し使われたり、トキがヘブンの真似をして「ナンボウ」と口にする場面が生まれたりすれば、それは「二人だけの合言葉」「ある種の約束の言葉」へと変わっていく可能性があります。
まとめ:『ばけばけ』の「ナンボウ」とは何のこと?
『ばけばけ』第99回でヘブンが口にした「ナンボウ」は、辞書で意味が引ける日本語ではなさそうです。
モデルである小泉八雲の「ヘルンさん言葉」を踏まえた”ヘブン語”の一種として生まれた造語的な表現と考えられます。
今後「ナンボウ」が単なる”聞き取れない日本語”から「トキとヘブンだけが持つ特別な合言葉」へと意味が深まっていく可能性もあります。
言葉遊びと人間ドラマが絶妙に絡み合う『ばけばけ』らしい演出として、引き続き注目していきたいですね。

