NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第28回では、松江に赴任した英語教師レフカダ・ヘブンがトキに対して、女中の職務を依頼する際に「月給20円」という破格の待遇を提示します。
ドラマを見ていて「月給20円ってそんなに高い金額なの?」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。
本記事では、明治23年(1890年)当時の物価や給与水準を基準に考え、この「月給20円」が現在のいくら相当なのかについて詳しく解説します。
ドラマの背景にある歴史的事実を一緒に見ていきましょう。
『ばけばけ』第28回で登場した「月給20円」の衝撃
NHK朝ドラ『ばけばけ』第28回では、松江に着任した英語教師レフカダ・ヘブン(史実ではラフカディオ・ハーン/小泉八雲)が、身の回りの世話をしてくれる女中を募集する場面が描かれました。
ヘブンの通訳を務める錦織友一(吉沢亮)から松野トキ(髙石あかり)に提示された報酬が「月給20円」というもので、この金額が当時としては破格の待遇であったことが明らかになります。
しかし、この「月給20円」という数字だけを見ても、現代の日本人にとってはその価値がピンときませんよね。
そこで重要になるのが、当時の物価や職業別給与との比較です。
同じ時代に、どのような職業がどの程度の給料をもらっていたのかを知ることで、初めてこの「月給20円」がいかに高額だったかが理解できるようになるでしょう。
明治23年(1890年)当時の職業別給与比較
ドラマの舞台となっている1890年(明治23年)当時の日本における職業別の給与を見ると、その階級差の大きさが浮き彫りになります。
主な職業の月給
- 公立小学校教員(東京)の初任給:月給5円
- 機械織職(女性・東京):月給2円60銭
- 和菓子製造職(東京):月給5円4銭
- 石工(日雇い・東京):日給39銭(月給換算約9.75円)
- 大工(日雇い・東京):日給42銭(月給換算約10.5円)
- 女中の一般的な月給:月90銭~1円程度
これらのデータから分かることは、トキが提示された「月給20円」という額が、当時の小学校教員の初任給(5円)の実に4倍に相当するということです。
現在の公立小学校教員の初任給が約20万円であることを考えると、その4倍は月給80万円に相当することになります。
米の価格による換算:より正確な「20円」の価値
歴史的な金銭価値を測る際には、複数の基準を使用することが重要です。
その中でも米価は生活必需品であり、時代を通じて比較しやすい指標として利用されます。
1893年の白米10kgは約0.665円でした。
一方、現在の白米10kgは約4,500円です。この比較から計算すると、1円=約6,700円という換算が成り立ちます。
したがって、トキの月給20円は:
- 20円 × 6,700円 = 約134,000円
つまり、米価を基準とした換算では、現在の金銭価値で約13万円から14万円に相当するということになります。
給与基準による換算:より高い評価
一方、当時の教員給与を基準とした場合は、さらに高い換算額になります。
明治30年代の小学校教諭の初任給は約8~9円で、現代の教員初任給は約20~25万円です。
この比較から、1円=約25,000~31,000円と計算できます。
したがって
- 20円 × 25,000~31,000円 = 約500,000~620,000円
つまり、給与基準による換算では、現在の金銭価値で約50万円から62万円に相当することになるのです。
ヘブン先生の月給100円は現在のいくら?
ドラマ『ばけばけ』第22回の放送内容から、ヘブン先生が島根県から受け取っていた月給が100円であることが判明しました。
これは同じ学校で働く日本人教師の月給15~20円の約5倍以上に相当する破格の待遇です。
この100円を現代の金銭価値に換算すると:
- 給与基準による換算:月給200~310万円程度
- 米価基準による換算:月給67万円程度
なぜ外国人教師の給料がこれほど高かったのかというと、
明治初期の「文明開化」政策の中で、「お雇い外国人」として招聘された技術者や教師には、日本国内の人材では代替できない専門知識を持つという理由から、国際的な体面を保つための厚待遇が与えられたためです。
海外からの招聘にかかる旅費・滞在費も含めた待遇であったと考えられています。
明治時代の物価から見る「月給20円」の豊かさ
当時の物価を具体的に見ると、おトキが提示された月給20円がいかに豊かな生活をもたらすものであったかが理解できます。
明治時代(1890年前後)の物価
- そば1杯:1銭
- あんぱん1個:1銭
- たまご1個:1.1銭
- 白米10kg:約70銭
- 英和辞典:30銭
つまり、トキの月給20円(=2,000銭)があれば
- そば約2,000杯を購入可能
- あんぱん約2,000個を購入可能
- 白米約285kg(約57袋分)を購入可能
ドラマで描かれている松野家が経済的に苦しい状況にあることを考えると、この月給20円は家族全体を支えるのに十分な額であり、むしろ豊かな生活を可能にする金額だったのです。
当時の女性労働者の給与水準との比較
明治時代における女性労働者の給与は、男性と比較して極めて低かったという社会構造の特徴があります。
当時の女性労働者の主な職業と給与:
- 紡績女工:月給5~8円
- 看護師:月給5~10円
- 一般的な女中:月90銭~1円
- 花田旅館の女中ウメの月給:約90銭
これらの数字から明らかなように、トキに提示された月給20円は、当時の女性労働者の給与相場を大きく上回る極めて高額な待遇だったのです。
通常の女中であれば月90銭程度の給与で働いていたのに対し【月給20円】その約22倍以上という大きな差があります。
ラシャメン(洋妾)という社会的背景
ドラマの中で「ラシャメン」という言葉が出てくるように、外国人男性の女中、特に個人の家で働く女中は、単なる家事労働者ではなく、実質的に妾に等しい立場と見なされていたという社会的背景がありました。
『ばけばけ』第27回放送で登場した遊女のなみが語るように、ラシャメンになることは当時の日本社会では
- 同胞からの激しい差別を受ける
- 「人間ではない」と言われる
- 石を投げられたり、唾をかけられたりする可能性がある
- 身ぐるみはがされることもある
- 最悪の場合、自死に至ることもある
という極めて深刻な社会的差別があったのです。
したがって、ドラマでトキが最初、月給20円という破格の待遇を提示されても、その誘いを断った理由は、単なる経済的問題ではなく、社会的身分や名誉の問題にあったということが分かります。
しかし、実家の借金や育ての親であるタエの窮状を目にすることで、トキはやがてこの決断を変えることになります。
士族の娘という立場の価値
ドラマの設定で、ヘブンが「士族の娘を女中にしたい」という注文を出していることが重要です。
なぜなら、当時の日本社会では、士族という身分は社会的地位を示す最も重要な要素だったからです。
トキは「没落士族の娘」という設定で、家は貧困に陥っているものの、元々は武家の身分を保有していました。
ヘブンがわざわざ「士族の娘」という条件を付けたことは、外国人である自分の身の回りの世話を「士族の娘」にさせることで、自分の社会的地位を高め、松江の社会における立場を確立したいという意図があったのではと考えられます。
明治23年という時代背景
1890年(明治23年)という時代は、日本の近代化がまさに進行中であった時期です。
この年は
- 第1回帝国議会が開召される(憲法施行)
- 教育勅語が発布される
- 日本が次々と新しい法制度を整備していく時期
という歴史的に重要な転換点でもありました。
ドラマの舞台となった松江は地方都市ですが、ヘブンのような外国人教師を招聘することで、地方においても「文明開化」が進められていたことが分かります。
まとめ:【ばけばけ】トキの女中の給料「月20円」は今で言うといくら?
NHK朝ドラ『ばけばけ』第28回に登場する「月給20円」は、現代の金銭価値に換算すると約50万円から80万円程度に相当する破格の待遇であったことが判明しました。
このドラマを通じて、明治時代の女性労働者の給与水準、外国人教師が受けていた破格の待遇、そして当時の日本社会における身分制度と経済格差の実態が、具体的な数字とともに浮かび上がってきます。
トキが月給20円という高額の報酬を受けてもなお「ラシャメン(洋妾)」という社会的差別を恐れて、一度は拒否した理由も、単なる経済的問題ではなく、当時の日本社会における深刻な社会的偏見があったからなのです。
ドラマの背景には、こうした歴史的リアリティが丁寧に織り込まれているのです。
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